[時臣陣営]
時臣 :
激しい雨が降りしきる夜。
時臣は静かに笑っていた。
[時臣陣営] 時臣 : 「……管理者は一先ず始末した、セイバーを召喚している以上、手加減はできなかった」
[時臣陣営] 時臣 : 「大分情報が漏洩してしまったようだが……まぁいい」
[時臣陣営] 時臣 : 「これだけの魔力と装備があれば……既に優勝は私のものだ」
[時臣陣営] 時臣 : 「優雅に、そして完璧に」
[時臣陣営] 時臣 : 「……そうだな、キャスター?」
[時臣陣営] 時臣 :
[時臣陣営] 時臣 :
[時臣陣営] ??? : 「はい……時臣様」
[時臣陣営] ??? : 「聖杯はアナタの元に」
[時臣陣営] ??? :
[時臣陣営] ??? :
[時臣陣営] 時臣 : 「……はぁ、はぁ」
[時臣陣営] 時臣 : 「ぐっ、あの……軍人風の男の宝具の効果か」
[時臣陣営] 時臣 : 「キャスターを、維持できなくなった」
[時臣陣営] 時臣 : 「……だが、まだ魔力は残っていて、令呪もある」
[時臣陣営] 時臣 : 「優雅とは到底言い難いが……しかし」
[時臣陣営] 時臣 : 「……マスターさえ倒せば、まだ勝機はある」
[時臣陣営] 時臣 : 「サーヴァントを奪えば……!}
[時臣陣営] 時臣 :
[時臣陣営] 時臣 :
[時臣陣営] 時臣 : 「はぁ……はぁ」
[時臣陣営] 時臣 : 人気のない路地裏で、魔力を貯め込むため、秘密の倉庫に移動する。
[時臣陣営] 時臣 : そこにはまだ秘蔵している宝石がある、あそこまでいって、魔力を貯えつつ……戦況を伺えば。
[時臣陣営]
ギム・ギンガナム :
カツン
「探したぞ。遠坂時臣」
[時臣陣営] 時臣 : 「!?」
[時臣陣営] 時臣 : 脂汗を額に浮かべながら、振り返る。
[時臣陣営] 時臣 : 「な、何者だ……!?」
[時臣陣営] 時臣 : 「なぜ、私の名前を……!」
[時臣陣営]
ギム・ギンガナム :
刀を抜き放ちながら、名を名乗る
「ギム・ギンガナム。月の御大将だ」
[時臣陣営] 時臣 : 「月……!? 何を言って……!」
[時臣陣営] 時臣 : 礼装を起動し、構えようとするが……魔力が集中しない。
[時臣陣営]
ギム・ギンガナム :
「フハハ…」
「なあ、敗者には敗者に相応しい幕切れがあると思わないか?ましてや敗北を認めず悪あがきを続けるものには…」
[時臣陣営] 時臣 : 「それを知っているという事は……貴様、マスターか……!?」
[時臣陣営] 時臣 : あの時、一騎だけ戦闘に参加していなかったサーヴァントがいた、つまり。
[時臣陣営] 時臣 : 「ランサーのマスター……!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「貴様も魔術師の端くれならば、ロンドンの戦火は耳に入っているだろう。この小生、ギム・ギンガナムこそがその主犯にして、貴様の言う通りランサーのマスターよ」
[時臣陣営] 時臣 : 「ば、ばかな! あのような暴虐が許されるわけが……!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「許されるのだよ!!!この小生にだけは!!!黒歴史の力を持ったターンXには!!!許されるだけの力がある!!!!」
[時臣陣営] 時臣 : 「く、狂ってる……!」
[時臣陣営] 時臣 : なんということだ、伝統を、そして魔術の秘奥と隠匿を踏みにじるような男が……マスターなどと。
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「そうさ!その狂った歴史を積み上げてきたのは、他ならぬ人類だ!」
[時臣陣営] 時臣 : 「お、お前だって……」
[時臣陣営] 時臣 : 震える手で、腰に手を伸ばす。ベルトの裏に仕込んでいる……アゾット剣。
[時臣陣営] 時臣 : 「お前だって……」
[時臣陣営] 時臣 : 「人間じゃねぇかああ!!」
[時臣陣営] 時臣 : 「ギンガナムゥウ!!!」
[時臣陣営] 時臣 : 腰だめにアゾット剣を握りしめ、飛び掛かる。
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「…フハハ、その玩具で、このギム・ギンガナムと打ち合うつもりかァ!!!その心意気やよし!!!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 深く踏み込み、その刀を振るう
[時臣陣営] 時臣 : 「甘い!! 無策で魔術師が飛び込むと思ったか!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「!」
[時臣陣営] 時臣 : アゾット剣に込めた魔力で礼装を起動し、剣の柄にはめ込まれた宝石を砕いて、運動能力を強化。体中の筋肉が悲鳴をあげるが、後先など考えていられない。
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「ぬウッこれはァ!?肉体の強制的な…」
[時臣陣営] 時臣 : 恐らく骨折は避けられない、だが、ここでこの男を討ち取れるのなら……!
[時臣陣営] 時臣 : 「うぉおおぉおおお!!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : が
[時臣陣営] 時臣 : 「!?」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : ギンガナムはそこで、時臣の放つ刃をくぐるように、大きく屈んだ
[時臣陣営] 時臣 : 「な!?」
[時臣陣営]
ギム・ギンガナム :
そこから全身のバネを使うように上へと斬り上げ
空中に鮮血が舞う
[時臣陣営] 時臣 : あんな巨体で、なんと俊敏な……!
[時臣陣営] 時臣 : 「あぐうう!」
[時臣陣営] 時臣 : 「ば、バカな……!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「貴様は魔術師であって戦士ではない。だが、小生は戦士であって魔術師ではない!」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「一流の魔術でも、三流の体術ではこの小生を仕留めるには無理があったな、時臣」
[時臣陣営] 時臣 : 「く、口惜しや……!」
[時臣陣営] 時臣 : 「す、まない……凛……」
[時臣陣営] 時臣 : 自らから流れ落ち、その場に生まれた鮮血の海に溺れ。
[時臣陣営] 時臣 : 遠坂時臣は……静かに絶命した。
[時臣陣営]
ギム・ギンガナム :
それを見届けて、刀を収める
「…ふ、貴様の娘のことならば、安心するといい」
[時臣陣営] ギム・ギンガナム : 「彼女の幸せは、このギム・ギンガナムとターンXに残された物語が保証する…」
[時臣陣営]
:
[時臣陣営] GM :
[時臣陣営] GM :
[時臣陣営] GM : 「はぁ……はぁ……はは、ははは」
[時臣陣営] GM : ずるずる、紅い筋を石畳の上に引きながら、男は歩く。
[時臣陣営] GM : 「ざまぁないなァ……遠坂時臣」
[時臣陣営] GM : すでに事切れたの死体、それを『釜』に放り込んで、笑う。
[時臣陣営] GM : 男は、仮面をかぶっていた。天狗を思わせる赤い鼻の仮面。だが、隠しているのは目から下半分だけ。爛々と輝く丸い目は、『釜』に放り込んだ時臣の死体に注がれている。
[時臣陣営] GM : 真っ白な蓬髪、上半身半裸。その背には歪な入れ墨……魔術刻印。しかし、それは既に彩を失っている。
[時臣陣営] GM : からから下駄の音を鳴らして、男は両手を広げる。
[時臣陣営] GM : 「初手に俺のセイバーを殺ったアンタが初戦敗退」
[時臣陣営] GM : 「そんでもって生き残りはガキが二人におっさん二人……いやぁあぁ、良い戦争だなぁ?」
[時臣陣営] GM :
[時臣陣営] GM :
[時臣陣営] ??? : 「なんつってな」
[時臣陣営] ??? :
[時臣陣営] ??? :
[時臣陣営] ??? :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「さぁ」
[時臣陣営]
ピノ :
「戦」
「争」
「の」
「時」
「間」
「だ」
[時臣陣営] ピノ : 「準備はいいか?」
[時臣陣営] ピノ : 「アヴェンジャー」
[時臣陣営] :
[時臣陣営] :
[時臣陣営] : 「ああ」
[時臣陣営] : 「沈めてやるぜ……一人残らずな」
[時臣陣営] :
[時臣陣営] :
[時臣陣営] :
[時臣陣営] ピノ : 「時臣のお陰でとんだ大外れだ。セイバーの方が良かった」
[時臣陣営] ピノ : 「まぁいい」
[時臣陣営] ピノ : 「元々、あのお嬢ちゃんとは反りがあわなかった。いやぁ、ネームバリューだけで選ぶのは良くなかった」
[時臣陣営] ピノ : 「メジャーはどうにも肌にあわない」
[時臣陣営] ピノ : 「マイナーなインディーズで、俺なりのビートでリベンジといこうじゃないか」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「なんつってな」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう : 少女は、次の視察へ───。
[時臣陣営] 松坂さとう : 視察……?
[時臣陣営] 松坂さとう : もう脱落したのに?
[時臣陣営] 松坂さとう : 松坂さとうは、もう既に勝つ気は無いのに?
[時臣陣営] 松坂さとう : ──────はぁ。
[時臣陣営] 松坂さとう : 私も、随分と変わってしまいました。
[時臣陣営] 松坂さとう : お人好しって感染するんですね。
[時臣陣営] ピノ : 「おいおい、チケットは販売してないぜ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「おっと……」
[時臣陣営] ピノ : 薄暗がりから。現れる。
[時臣陣営] 松坂さとう : ───この方が、アヴェンジャーの……。
[時臣陣営] 松坂さとう : 名は確か。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……始めましてピノさん」
[時臣陣営] 松坂さとう : 会釈。
[時臣陣営] ピノ : 「はじめましてお嬢さん、どうした?」
[時臣陣営] ピノ : 「観覧席に行こうとして迷ったか?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ああいえ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「────機密室へ出向いたまでです」
[時臣陣営] 松坂さとう : ピノの瞳を、じっと見つめる。
[時臣陣営] ピノ : 「そんな見つめられちゃあ照れるだろ」
[時臣陣営] ピノ : 「なぁ?」
[時臣陣営] ピノ : 真横にいた。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「っ………!?」
[時臣陣営] 松坂さとう : ────速い……!
[時臣陣営] 松坂さとう : これが、"イレギュラー"……。
[時臣陣営] 松坂さとう : 冷や汗が、首筋を伝う。
[時臣陣営]
松坂さとう :
「……単刀直入に、申し上げましょう、ピノさん」
顔色はそれでも一切変えずに。
[時臣陣営] ピノ : 「へぇ、なにかな?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「────何故、"この戦争"に?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「聖杯戦争は、七人のマスターと、それに従う七機のサーヴァントによる、願いを賭けた戦い、と聞きました」
[時臣陣営] 松坂さとう : 目だけ動かし、ピノの瞳をじっと。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「これは、あまりにも特殊な、異例な事態、本来はあってはならない出来事」
[時臣陣営] 松坂さとう : 純粋な好奇心と、"友"の想いが、さとうの口を動かす。
[時臣陣営] ピノ : 「何故?」
[時臣陣営] ピノ : ピノは小首を傾げ。
[時臣陣営] ピノ : 「そうだな、俺も疑問があるんだがな」
[時臣陣営] ピノ : さとうの首に。
[時臣陣営] アヴェンジャー : ナイフが添えられる。
[時臣陣営] アヴェンジャー : そっと、無音で。
[時臣陣営] アヴェンジャー : 軽く引くだけで……どうなるかは想像に難くない。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………………」
[時臣陣営] ピノ : 「こっちは戦争してる人殺しだぜ」
[時臣陣営] 松坂さとう : それでもさとうの顔色は、変わらない。
[時臣陣営] ピノ : 「チケットも無しに顔出した理由はお友達のためか?」
[時臣陣営] ピノ : 「俺は『復讐』してるのさ、だからここで女一人死んだところでなんてこたぁない」
[時臣陣営] ピノ : 「冥途の土産とかそういうのが趣味かな?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ええ、良い狼煙になるでしょうね」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私の死で、"友"が決起するのあれば」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「────貴方を越えられるのであれば」
[時臣陣営] 松坂さとう : ……ああ、つくづく私は……。
[時臣陣営] 松坂さとう : どこまでも……変わってしまった……。
[時臣陣営]
松坂さとう :
確か、ミーシャさんは……罪滅ぼし、だとか……。
……はぁ、何でしょうねぇ、どこまでも私と……"同じ"。
[時臣陣営]
松坂さとう :
私だってそうだ、"犯罪者"だ。
[時臣陣営] 松坂さとう : 戦争をしていた、人殺しだ。
[時臣陣営] 松坂さとう : だからこそ、私を変えてくれた、あの子のために私は────。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「最後くらい聞かせてくださいよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「貴方の望み」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「安いチケット買ってここに来たわけじゃないんですから」
[時臣陣営] ピノ : 「ははは、命懸けってか?」
[時臣陣営] ピノ : 「じゃあ教えてやるよ、俺はな」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「『復讐』してやりたいのさ」
[時臣陣営] ピノ : 「俺からすべてを奪った」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「――この『聖杯戦争』そのものにな」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「なんつってな」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] 松坂さとう : ───────────。
[時臣陣営] 松坂さとう : ………なるほど………。
[時臣陣営] ピノ : 「ついでにサービスだ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……」
[時臣陣営] アヴェンジャー : アヴェンジャーが、さとうの鳩尾に一撃を入れる。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ぐっほッ……!?」
[時臣陣営] ピノ : 「そんなにみたいならつれてってやるよ、特等席に」
[時臣陣営] ピノ : 「お友達が待ってるぜ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 膝から崩れ。
[時臣陣営] ピノ : 「どうだ? 俺からのプレゼント、クラス名は……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「とく、とう……せき……ですって……?」
[時臣陣営] ピノ : 「――プリンセスでどうだ?」
[時臣陣営] ピノ : 「囚われのな」
[時臣陣営] ピノ : 「ははははははは!!」
[時臣陣営] ピノ : 「なんつって!!!」
[時臣陣営]
松坂さとう :
───────苦いッッ。
あああああッ、苦いッッ……!!!!
[時臣陣営] 松坂さとう : ───────それでも。
[時臣陣営] 松坂さとう : きっと、あの子なら。
[時臣陣営] 松坂さとう : この人を──────────。
[時臣陣営] 松坂さとう : 苦虫を噛み潰したような表情をピノへ向け続けながら、睨み続けながら。
[時臣陣営] 松坂さとう : 意識を、失った───。
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう : そのポケットには、ボイスレコーダーが、起動したままであった。
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう :
[時臣陣営] 松坂さとう : 自分の服へ、ピノの鮮血が付着しても、顧みず。
[時臣陣営] 松坂さとう : ピノの体を引きずりながら、歩む。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「─────なーにが人殺しですか」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「大嘘吐き」
[時臣陣営] ピノ : 「そうさ……俺は大嘘吐きのピノッキオさ」
[時臣陣営] ピノ : 流れる鮮血に塗れたまま、笑う。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……結局貴方は……自分を壊して欲しかった、怒りを聖杯戦争にぶつけたら、貴方もまた、復讐相手となるのだから」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「それは………」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「相当な我儘で、自己中ですね」
[時臣陣営] ピノ : 「『復讐』なんてそんなもんさ」
[時臣陣営] 松坂さとう : ────もう、嫌という程、苦くて。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……"復讐"、スッキリしました?」
[時臣陣営] 松坂さとう : ───朝日が、徐々に昇る。
[時臣陣営] ピノ : 「……へっ、まぁまぁな……甘ちゃん揃いで安心したぜ」
[時臣陣営] ピノ : 「あのセイバーとは大違いだ……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ええ、本当です、"甘い"人ばかりですよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………」
[時臣陣営] 松坂さとう : セイバーの話に、神妙な顔になり。
[時臣陣営] ピノ : 「相手は英雄……散々殺し、殺され、その上に立ってた」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………ええ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「1人殺せば、犯罪者」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「100人殺せば……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「英雄」
[時臣陣営]
松坂さとう :
「よく言ったものですよね」
自傷的な笑みを浮かべながら。
[時臣陣営] ピノ : 「かの獅子王様からすりゃあ……俺は甘ちゃんだったんだろうさ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ええ、大甘ちゃんですよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「誰も殺さずに復讐に燃えて……悪役まで演じて……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……こんなの……誰が見捨てられるんだって話ですよ」
[時臣陣営] ピノ : 「悪人さ……嘘は罪だぜ」
[時臣陣営] ピノ : 「それに、俺の妻は……なんだかんだでこの儀式に殉じたんだ、俺はそれに納得しなかった」
[時臣陣営]
松坂さとう :
「………」
その話に、無言で耳を傾ける。
[時臣陣営] ピノ : 「それを俺は踏みにじったんだ。イレギュラークラスなんて呼び出して……台無しにしてやったんだ」
[時臣陣営] ピノ : 「二度と……こんな事が起きないようにな」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………ふふ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ほんと、大甘ちゃん……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………ピノさん、ですが残念ながら、この戦いは、続くことでしょうね、未来永劫、ずっと……何せ貴方は、負けてしまったんですから」
[時臣陣営] ピノ : 「へへ……どうだろうな」
[時臣陣営] ピノ : 「甘ちゃんばっかり残ってんだ」
[時臣陣営] 松坂さとう : ズルズルと引きずり、気が付けば、さとうの住むマンションの前へ。
[時臣陣営] ピノ : 「望みはあるさ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「貴方もまた……信じるん、ですね……」
[時臣陣営] 松坂さとう : はぁ。と溜息を一つ。
[時臣陣営]
松坂さとう :
私を歪ませる、何もかも。
苦くて汚い私を、どこまでも。
[時臣陣営] ピノ : 「しかしまぁ……既婚者を女の一人暮らしに連れ込むのは関心しねぇな」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「はぁ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「そんなことほざいてたら、死にますよ?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私は嫌なので」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「貴方が死ぬのが」
[時臣陣営]
松坂さとう :
────私よりも甘くて、綺麗なくせして。
それで、死ぬだなんて、逃げるだなんて。
[時臣陣営] 松坂さとう : 許せるわけが、ない。
[時臣陣営]
松坂さとう :
「……少し静かにしててくださいね、しおちゃんが起きちゃうので……」
神戸しお───家族に見放された少女、それをさとうが攫った少女。
誘拐犯、故にさとうは、"犯罪者"。
自部屋のベッドまで、ピノを連れていく。
[時臣陣営] ピノ : 「へ……全く、仕方ねぇな」
[時臣陣営] ピノ : 「言われなくても静かにするさ……もう騒げるほど元気じゃねぇ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ええ、大暴れしましたからね、それが男の子なんでしょうね」
[時臣陣営]
松坂さとう :
「よいしょっと…………はぁ……なるほど、これは……ええ、良かったですねピノさん、内臓まで傷ついていませんよ」
魔力を行使し、応急処置を始める。
[時臣陣営] ピノ : 「騎士様の手加減だろ……伊達にサーヴァントじゃねぇってことだな」
[時臣陣営] ピノ : 「最初に呼んだのがああいうのだったら……違ったのかもな」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………貴方のことも、見抜いていたのかも、しれませんね」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………ええ、ですが、過去はもう……覆りませんよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 私の過去だって、そうだ。
[時臣陣営] 松坂さとう : だから、私も、決めた。
[時臣陣営] 松坂さとう : マルクトさんにも、ミーシャさんにも頼めなかった頼み。
[時臣陣営] 松坂さとう : ……この、大甘ちゃんなら、きっと……。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………ピノさん、私って実は、最低な誘拐犯なんですよ」
[時臣陣営] ピノ : 「……現在進行形でもうそうだしな」
[時臣陣営] 松坂さとう : ……誰にも明かさなかった、明かせなかった、私の"苦い"。
[時臣陣営] 松坂さとう : ピノに不機嫌そうにじっと見て。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「いや、そうじゃなくてですね……」
[時臣陣営] ピノ : ニヤリと笑う。
[時臣陣営] ピノ : 「手慣れてる」
[時臣陣営] ピノ : 「『初犯』じゃないのはわかる」
[時臣陣営] 松坂さとう : う……見透かされている……。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………ええ、そういうこと、ですよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私は……貴方以上に、独善的で……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私の、理想的な"甘い世界"のためだけに」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私は、しおちゃんを、誘拐した、誘拐しても問題無いと思ったから、誘拐しました」
[時臣陣営]
松坂さとう :
───ただ、その判断は間違っていたようで。
街中に、"神戸しお"を探してほしいという旨の紙が、張り巡らされており。
これは、彼女の家族……兄によるもので。
[時臣陣営] 松坂さとう : 結局私は、他人の幸せを奪って、甘い世界に生きようとしていた罪人で。
[時臣陣営] 松坂さとう : マルクトさんにも、ミーシャさんにも、ピノさんにも。
[時臣陣営] 松坂さとう : その隣に立つことが許されない、そんな人物。
[時臣陣営] 松坂さとう : だから………。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ピノさん、正義になってください」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私を誘拐犯として、警察に突き出してください、しおちゃんを、元の家族のもとへ、返してください」
[時臣陣営] ピノ : 「……俺に頼む理由は?」
[時臣陣営] ピノ : 「お友達もいる、自首もできる」
[時臣陣営] ピノ : 「嘘吐きに頼むには……ちょっと不適切じゃあねぇか?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……私が最低で、臆病で、あの2人には見せたくない顔だったからですよ、だから私は、貴方を利用したい」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私という最底辺を見て、貴方だって満たせるじゃないですか、自分はまだ生きていい人間だって、生きるべき人間だって、そんな気持ちになれるじゃないですか」
[時臣陣営]
松坂さとう :
そうして、応急手当を完了する。
ピノの腹周りは綺麗に包帯で巻かれ、血ももう止まっている。
[時臣陣営] ピノ : 「……」
[時臣陣営] ピノ : ピノは、それを聞いて。
[時臣陣営] ピノ : 「はぁあぁああぁあ」
[時臣陣営] ピノ : 大きく溜息をついた。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………」
[時臣陣営] ピノ : 「まず勘違いしてるみたいだから一ついっておくぜ」
[時臣陣営] ピノ : 「ぜんっぜん満たされない」
[時臣陣営] ピノ : 「何が最底辺だ」
[時臣陣営] ピノ : 「こちとら魔術師だぞ」
[時臣陣営] ピノ : 「人でなしなんて幾らでも見てる」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………」
[時臣陣営] ピノ : 「アンタを見て満たされる事なんてない。今俺の中にある気持ちはな」
[時臣陣営] ピノ : 呆れたように笑って。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……そう、です、か……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 少し、残念そうな、寂しそうな顔をし。
[時臣陣営] ピノ : 「『いくらでもやり直せるだろ』って感じだ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……やり、直す……?……私が……?」
[時臣陣営] ピノ : 「アンタ、見たところ表の世界だろ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 頷く。
[時臣陣営] ピノ : 「普通に罪償う気持ちもあるだろ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……魔術師の世界には、疎いです……それに……はい」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………罪は、罪ですから」
[時臣陣営] ピノ : 「じゃあ」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「普通だろ」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] 松坂さとう : ─────────。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「普、通………」
[時臣陣営] 松坂さとう : 頭が、真っ白になる。
[時臣陣営] 松坂さとう : そんな言葉を言われたのは、初めてだった。
[時臣陣営] ピノ : 「ちょっとじゃすまない『間違い』をしちゃあいるが」
[時臣陣営] ピノ : へらへら笑う。
[時臣陣営] ピノ : 「まだ『謝れる相手』がいるんだろう?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……………それ、は……はい」
[時臣陣営] ピノ : 「じゃあやっぱ、普通だろ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………………」
[時臣陣営] ピノ : 「ぎりっぎりだけどな」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……魔術師って」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「変ですね」
[時臣陣営] ピノ : 微笑を漏らして。
[時臣陣営] ピノ : 「俺もそう思う」
[時臣陣営] 松坂さとう : 表情が、柔らかくなる。
[時臣陣営] 松坂さとう : 同じように、微笑が漏れる。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………フフ……あーあ……もう、なんでしょうね」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「グズグズ考えてた私が、馬鹿みたいに思えてきました」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ピノさんって、やっぱり、大甘ちゃん」
[時臣陣営] 松坂さとう : 苦くて、甘い。大甘い。
[時臣陣営] 松坂さとう : だからこそ、なんだか、私は……救われた。
[時臣陣営] 松坂さとう : 欲しい言葉だった。
[時臣陣営] 松坂さとう : 許されたかった。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………ありがとうございます、ピノさん」
[時臣陣営] ピノ : 「命の恩人に言われる言葉じゃねぇな」
[時臣陣営] ピノ : 「まぁ……表の世界の基準じゃあ、傷害から不法侵入に器物破損、ついでに脅迫罪までやってる俺が偉そうにあれこれいうのもおかしいが……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「プッ……そんなのバレたら、確かに……」
[時臣陣営] ピノ : 「あと死体遺棄もあるな……時臣の」
[時臣陣営] ピノ : へらへら笑う。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……ええ、もう、大犯罪者ですね」
[時臣陣営] ピノ : 「ああ、俺の方がシャレにならないぜこれ」
[時臣陣営] 松坂さとう : くすくすと笑う。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「なーんだ、あは、あはは」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「…………でも、ピノさん、やっぱり私は……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「もう、表の世界で生きれるような気が、しません」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………だって、私は、表の世界が、苦くて、苦くて苦くて苦くて……それで狂行に手を染めて……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………だから」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私は、"甘い世界"にいたいんです」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………ピノさん、私も……」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「魔術師……目指してみたいです」
[時臣陣営] 松坂さとう : ───私の中で生まれた、ハッキリとした、願望。
[時臣陣営] 松坂さとう : 甘い世界を作りたいという、そんな抽象的なものではなく。
[時臣陣営] 松坂さとう : 確固とした、願い。さとうの純粋な気持ち、憧れ。
[時臣陣営] 松坂さとう : 根源?とやらには興味はない。それでも……。
[時臣陣営] 松坂さとう : マルクトさんやミーシャさん、それに、ピノさんのような人がいる世界ならきっと、私にも、居場所があるはずだ。
[時臣陣営] ピノ : 溜息をついて。
[時臣陣営] ピノ : 「もし断ったら?」
[時臣陣営] ピノ : 一応聞いてみる。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ん~」
[時臣陣営] 松坂さとう : 口元に指を置いて、考える。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「しおちゃんの誘拐犯続行かも?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 悪戯のような笑みを浮かべる。
[時臣陣営] ピノ : 「そりゃ大事だ」
[時臣陣営] ピノ : 苦笑いして。
[時臣陣営] ピノ : 「条件がある」
[時臣陣営] 松坂さとう : ピノに頷く。
[時臣陣営] ピノ : 「『謝れる相手』がいることだけは、表でケリつけてこい。示談でもなんでもいい」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………はい、それは、勿論です」
[時臣陣営] 松坂さとう : 真剣な表情で。
[時臣陣営] ピノ : 「もう一つある」
[時臣陣営] 松坂さとう : また、頷き。
[時臣陣営] ピノ : 「俺もアンタもこのざまだから、もう戦争には関われない」
[時臣陣営] ピノ : 「でも戦後は別だ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「………!」
[時臣陣営] ピノ : 「もし、アイツらが『踏み外す』なら」
[時臣陣営] ピノ : 「『友達』はお前が何とかしろ」
[時臣陣営] 松坂さとう : ニコ、と笑い。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ええ、勿論です」
[時臣陣営] 松坂さとう : ピノの目をじっと見て、そう返す。
[時臣陣営] 松坂さとう : ───もしそうなったら、今度は。
[時臣陣営] 松坂さとう : 私が、信じる番──────そういうことですね。
[時臣陣営] ピノ : 「あと、これだけ言っておいてなんだが」
[時臣陣営] ピノ : 「俺は約束を守れない可能性があることも承知しろ」
[時臣陣営] ピノ : 「理由はわかるか?」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「──────大嘘吐きだから」
[時臣陣営] ピノ : ニヤリと笑って。
[時臣陣営] ピノ : 「勿論それもあるが……それ以上に」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「お前らから訴えられたら逃げ場がないからだ」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : そう、肩を竦める。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「……あは、あははは!」
[時臣陣営] ピノ : 「死体遺棄は時臣からして裏の人間だからまぁなんとかなりそうだが……傷害、不法侵入、器物破損、脅迫」
[時臣陣営] ピノ : 「これはぜーんぶ俺はお前らにしてる」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「ええ、ええ、そうですね、大犯罪者ですもんね」
[時臣陣営] ピノ : 「そういうことだ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「でも、お互い様ですよ」
[時臣陣営] 松坂さとう : 「私だって誘拐犯の端くれなんですから」
[時臣陣営] 松坂さとう : ニコ、と笑い。
[時臣陣営] 松坂さとう : 「犯罪者同士、仲良くしましょう」
[時臣陣営] ピノ : 「はっ……」
[時臣陣営] ピノ : 「まったく、とんでもない弟子候補もっちまったもんだぜ」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : 「なんつってな」
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ : まぁ、落ちたとはいえ……俺も管理人の家柄の魔術師ではあるしな。
[時臣陣営] ピノ : 博打打って負けた以上、『戦後処理』くらいはやらねぇと……筋が通らねぇか。
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] ピノ :
[時臣陣営] : その種が落ちる。
[時臣陣営] : その行く末は、生きる意味を持った男へと。
[時臣陣営] : ……『居場所にいつづける』エゴを果たす道を開かんと。
[時臣陣営] :
[時臣陣営] :
[時臣陣営] :